弁論主義

弁論主義とは、裁判の基礎となる訴訟資料の提出を当事者の権能かつ責任とすることです。

一般に、弁論主義は、民事裁判における基本原則と考えられています。
弁論主義を明確に定めた規定は民事訴訟法にありません。ですが、民事訴訟の対象となる事項は、実体法上私的自治の原則に服する以上、訴訟手続においても、これとの連続性を確保するため、また事案解明の面においても当事者の意思を尊重するのが望ましいとのことから、民事訴訟の本質として認められています(本質説)。

弁論主義の具体的内容として、3つのテーゼ(命題)があるとされています。
①裁判所は、当事者が主張していない事実を認定して裁判の基礎とすることは許されない(第1テーゼ)
②裁判所は、当事者間に争いのない事実はそのまま裁判の基礎にしなければならない(第2テーゼ。自白の拘束力。民事訴訟法179条)
③争いのある事実について証拠調べをするには、原則として、当事者が申し出た証拠によらなければならない(第3テーゼ。職権証拠調べの禁止とも言われます)

このうち、第1テーゼについて具体的に説明します(第2テーゼについては、自白(民事訴訟)に関する説明をご覧ください)。

第1テーゼは、上記のとおり、裁判所が裁判の基礎とする事実は、当事者が主張しているものに限られるというものです。
この点、当事者が主張していることが必要な「事実」が何であるか議論されていますが、その「事実」とは主要事実のことであり、間接事実・補助事実ではないというのが通説的見解です。
主要事実とは、権利の発生、変更、消滅という法律効果の判断に直接必要な事実のことです。例えば、自動車の売買契約をして代金を支払ったが、約束した引渡時期を過ぎても自動車の引渡しが受けられないので、自動車の引渡しを請求する裁判を起こしたとき、①売買契約を締結した事実、②約束の引渡時期が到来した事実を主張する必要がありますが、それらの事実が主要事実です。
また、間接事実とは、主要事実の存否を推認するのに役立つ事実のことです。例えば、自動車の代金を支払ったという事実を推認するのに役立つ事実として、ちょうどそのころに自分の銀行預金から代金額と同額をおろした事実というのが間接事実になります。
間接事実は、当事者の主張がなくとも裁判所が裁判の基礎とすることができるというのは、そうしないと裁判官の自由心証に基づく合理的判断を阻害するおそれがあり、審理を硬直化させるおそれがあるということが理由とされています。

また、第1テーゼの機能としては、裁判所にとっては審理の具体的範囲が決まること、当事者にとっては攻撃防御の機会が保障されること(必ず当事者の主張がなされるため、反論の機会があること。それまで誰も主張していない事実が認定されることがないため、不意打ちの判決がなされることがないこと)が挙げられます。

第1テーゼを厳格に適用すると、裁判所が判決で認定した事実と当事者が主張していた事実は完全に同一でなければならないことになりますが、そこは実務上柔軟な対応がなされています。
最高裁の判決で、当事者の主張した具体的事実と、裁判所の認定した事実との間に、態様や日時の点で多少のくい違いがあっても、社会通念上同一性が認められる限り、当事者の主張しない事実を確定したことにはならないという判示がされたものがあります(最判昭和32年5月10日)。

具体的にどのような事実が第1テーゼが適用される主要事実にあたるかどうかについて、これまでの裁判例で問題になったものが色々あります。
代理について、当事者が直接契約の成立を主張した場合に、裁判所が代理人との間で締結された契約を認定しても、両者間には法律効果に差異はないことを理由に弁論主義違反にならないとの判例があります。
他にも、債権譲渡について、債権の譲渡が主要事実であり、移転原因となるべき行為(売買、代物弁済など)は、間接事実に過ぎないとの判例があります。

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