民法(債権法)改正の解説18 [民法109条] 代理権授与表示による表見代理

民法109条も今回の民法改正の対象となっています。

改正後の民法109条の条文は、以下のとおりです。

1 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

以下において、民法109条1項と2項について、それぞれ説明したいと思います。

民法109条1項について

改正後の民法109条1項は、改正前の民法109条の条文の規定そのa土地.jpg
ままとなっています。
改正前の民法109条は、その一つの条文だけで、2項はありませんでした。

この民法109条1項に規定されている内容を代理権授与表示による表見代理と言います。

例えば、資産家で地主であるDが、友達のEについて、Dが所有する不動産の全ての管理、処分の一切合切を任せる代理人にしているということを色々な人に吹聴していたとします。
それは事実ではないのですが、Dは不動産の仕事を始めたばかりのEから頼まれ、Eに箔を付け信用を高めるための方便として協力してあげていました。
ところが、FがDから聞いた話を真に受け、Eに対してDの所有するa土地を売って欲しいと言ったところ、Eはこれを利用して大金を得ようとして、Dの代理人として行動し、勝手にa土地を5000万円でFに売る契約をして、先に代金を受領して逃亡し行方不明になってしまいました。
実際には、DはEから代理権を授与されていたわけではありません。
このようなEを無権代理人と言います。
無権代理人Eの行為の法的効力は、原則として本人Dに及びません。
そうすると、Fは、a土地を取得できず、何とかして行方不明のEを探し出して5000万円を取り返すしかなくなってしまいますが、通常は回収困難です。
この事例では、そもそもDがEを代理人にしたという嘘を吹聴したことに原因があります。
そこで、民法109条1項は、Fが実際はEがDの代理人ではないことを知っていた場合や過失により知らなかった場合を除き、Eの無権代理行為の効力をDに及ぼし、Fはa土地を取得できることにしました。その前提として、Dが吹聴していた代理権の範囲内でEが行動していたことが必要です。
これが代理権授与表示による表見代理です。

民法109条2項について

次に、改正後の民法109条2項は、全く新しい規定となっています。株式.jpg

先ほどの民法109条1項の事例において、Dが吹聴していたのはEがDの不動産に関する代理人ということでしたが、Eがその範囲を超え、Dの株式投資についても代理人であるかのように振る舞い、それを信じたGがEからDが所有する株式について1000万円で購入したところ、やはりEが1000万円を持って逃亡し行方不明になってしまったという場合に、Gが株式を取得できるかどうかという問題です。
つまり、民法109条1項が適用されるのは、Dが吹聴していた代理権の範囲内でEが行動した場合であり、民法109条2項が適用されるのは、Dが吹聴していた代理権の範囲外でEが行動した場合ということになります。

これに関し、改正前の時点で、最高裁判決昭和45年7月28日が、GがEに代理権があると信じ、信じるべき正当事由があれば、GとEの契約が本人Dに効力を生じる旨を判示しました。
同判決は、民法109条と110条の重畳適用という形で結論を導きました。
民法110条は、代理権がある者が代理権を超えた行為をした場合に、相手方が代理権があると信ずべき正当な理由があるときに代理人の行為が本人に効力が生じる旨の規定となっていることから、民法109条と110条を重畳適用することで、本人に効力を及ぼすことができるものとしたのです。
一般に、代理権があると信ずべき正当な理由(正当事由)とは、本当は代理権が無いことについての善意・無過失とされています。

改正後の民法109条2項は、この最高裁判決と同じ結論を導くものです。
改正後は、民法109条と110条の重畳適用ではなく、民法109条2項の適用により導かれることになります。

このように、民法109条2項は、既に存在する最高裁判例を条文化したものです。
したがって、改正前と改正後で実質的なルールの変更はありません。

なお、先ほどの事例では、あくまで吹聴されていたのは不動産に関する代理人であることですので、株式投資について代理権があると信じたとしても、それには過失があると評価される可能性が高いと思われますので、Eの株式売却行為が本人Dに効力を生じることは考えにくいです。

1項と2項の立証責任の違い

細かな点ですが、民法109条1項と2項で条文の表現が異なっていることにより、表見代理が認められる要件である代理行為の相手方の知不知、過失の有無についての立証責任の所在が異なっています

1項では、本文で他人に代理権を与えた旨を表示した者は「責任を負う」とした上で、ただし書きで、「ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と規定されています。
つまり、1項が適用される場面では、代理行為を有効にしたくない本人が、第三者の悪意・有過失を立証する責任を負います
それを立証できなければ、代理行為が本人に効力を生じるという本人に不利な結果となります。

これに対し、2項では、「第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。」という規定となっており、ただし書きはありません。
そして、正当な理由というのは、第三者の善意・無過失であると考えられています。
したがって、2項が適用される場面では、代理行為を有効にしたい相手方(条文上の「第三者」)が、自己の善意・無過失を立証する責任を負うのです。
これを立証できなければ、代理行為が本人に効力を生じないという相手方(第三者)にとって不利な結果となります。

一般的には、「無いこと」の立証は難しいと考えられており、善意(知らないこと)、無過失(過失が無いこと)を立証しなければならない2項の相手方(第三者)が勝つのは容易でないと思います。

このように、民法の条文は、表現を変えることで、微妙な違いを生じさせています。

経過措置

施行日前(令和2年4月1日)より前に、代理権を与えた旨が表示された場合については、改正前の109条が適用されます。

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