民法(債権法)改正の解説17 [民法108条] 自己契約・双方代理・利益相反

民法108条も改正されています。

改正後の民法108条は、以下のような規定になりました。

1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。


改正前の民法108条には、2項の規定はありませんでした。
改正後の民法108条2項は、新設されたものです。
改正後の民法108条1項は、改正前の民法108条をほぼ踏襲していますが、若干の変更があります。

民法108条1項について

改正前の民法108条は、「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。」という規定でした。絵画.jpg

同一の法律行為について相手方の代理人になる場合を自己契約と言います。
自己契約の具体例としては、資産家のCが所有する横山大観の絵を処分しようと思い、画商のDを代理人に選任し、Dにおいて適当な買い主を見つけて売って欲しいと依頼したところ、絵を見たDが自分で欲しいと思い、Cの代理人である立場を利用してDが自分で自分に売却した場合です。
これを無制限に認めると、Dは本当は1000万円の価値のある絵であるにもかかわらず、100万円でしか売れなかったと言って、激安の値段で自分が買い取ってしまいかねません。
そこで、改正前の民法108条は、自己契約は「できない」と禁止していました。

また、同一の法律行為について当事者双方の代理人となる場合のことを双方代理と言います。
双方代理の具体例は、資産家Cが横山大観の絵の売却について画商のDを代理人としたところ、ちょうど絵画コレクターのEが画商のDに横山大観の絵を買いたいので代理人として探して買って欲しいと言い、Dが売り主Cの代理人であると同時に、買い主Eの代理人となり、双方の代理人として売買契約を締結する場合です。
双方代理は、Dが自分の利益を図らなくても、どちらか一方に肩入れし、もう片方に非常に不利な契約をするおそれがあるため、やはり改正前の民法108条で禁止されていました。

ただ、禁止を破って自己契約や双方代理をした者がいた場合の法的効力がどうなるかについて必ずしも明確ではありませんでした。
この点、最高裁判決昭和47年4月4日判決は、双方代理の事例について、本人による事前の承認または追認を得ない限り無権代理行為として無効である旨を判示していました。
そこで、今回の改正後の民法108条では、同判決を受け、自己契約・双方代理の場合は、無権代理になることを明確にしました。
ただし、上記判決では、「本人による事前の承認または追認を得ない限り」という条件が付いていましたが、このような条件を付けずに、端的に無権代理になるものとしました。
無権代理になっても、本人が追認すれば有効になりますので(民法113条1項)、上記判決と結論の差はあまりないと思います。

それから、改正後の民法108条1項ただし書きは、改正前の規定のままで変更ありません。
例外的に、債務の履行、本人があらかじめ許諾した行為については、本人が予想外の不利益を被ることはないため、自己契約・双方代理でも有効になります。

民法108条2項について

改正前の民法108条には規定がありませんでしたが、自己契約・双方代理には該当しなくても、代理人が本人の利益と相反する行為(利益相反行為)をすることを制限する必要がありました。

大審院判決昭和7年6月6日は、建物の賃貸借契約を結ぶ場合に、大家が借家人から白紙委任状を受領し、借家人と大家との間で紛争が生じた場合には大家が借家人の代理人を選任する権限を授与した状態になっていた事例で、民法108条の趣旨に準拠して無効である旨を判示しました。
これを有効にしてしまうと、大家は自分の言うことを聞く人間を借家人の代理人に選任することができてしまい、借家人は不利な結論を受け入れざるを得なくなるおそれがあるからです。

なお、借家人は、あらかじめ許諾しているようにも見えますが、賃貸借契約を結ぶ際に、条件として要求されたものであり、完全に自由な立場で許諾したといえるか疑問です。
このように、判例も、利益相反行為についての制限をしていることもあり、改正後の民法108条2項で、利益相反行為を原則として無権代理として取り扱うことになりました。

どのような場合が利益相反行為に該当するかについては、以前から民法826条で規定されていた親権者の利益相反行為に関する事例で、行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであって、親権者の動機・意図をもって判定すべきでないとした最高裁判決昭和42年4月18日によって判断することになると思われます。

経過措置について

令和2年4月1日の施行日より前に代理権の発生原因が生じた場合は、改正前の民法108条が適用されます。

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