民法(債権法)改正の解説16 代理権の濫用 民法107条

改正後の民法107条は、全く新しい規定になっています。
改正前の民法107条が、改正後の民法106条に繰り上がって空いたところに新設されたものです。
改正後の民法107条の規定は、以下のとおりです。

代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。


この規定は、いわゆる代理権の濫用についての規定です。
代理権の濫用については、改正前の民法には規定がありませんでした。

代理権濫用についての最高裁判例

ただし、最高裁判所判決が出ており、代理権の濫用については、判例による運用が定まっていました。
改正後の民法107条は、既に出ている最高裁判所の判例を明確化したものであり、運用そのものが変わっているわけではありません。
今回の民法改正でよくあるパターンの一つである、判例の明文化になります。

代理権濫用の典型的なケースは以下のとおりです。
資産家のAは、懇意の不動産業者Bを信頼し、自己所有の不動産の売却を一手に任せており、BはAから不動産売却に関する一切の代理権を有していた。Bは自分の私腹を肥やそうとして、Aの不動産をXに1億円で売却し、Xから受領した1億円を持ってそのまま逃走、行方不明となった。Bが1億円をもって行方不明になったことを知ったAは、Xに対し、BがXに売った不動産の返還を求めた。
このように、代理人Bの行為は代理権の範囲内であるが、自分の利益のためにした権限濫用である場合に、そのようなBの行為が本人Aに効力を生じるかどうかという問題です。

この点、最高裁判決昭和42年4月20日、最高裁判決平成4年12月10日は、相手方が代理人の権限濫用を知り、または知りうべきであった場合に限り、民法93条ただし書きを類推適用して、代理人の行為が本人に効果を生じない、つまり無効になると判断しました。
民法93条ただし書きは、真意ではないことを知ってした意思表示である心裡留保の規定です。
相手方が真意でないことを知り、知ることができたときは、意思表示が無効になるという民法93条ただし書きのルールを借用したようなものです。
また、権限濫用を知りうべきであった場合というのは、言い換えると、権限濫用を知らなかったことに過失がある場合のことです。
裁判実務は、この最高裁判例に基づいて運用されてきました。

最高裁判例を踏襲した民法107条

そして、改正後の民法107条は、最高裁判例を踏襲しています。
取引を保護する見地から、相手方が悪意または重過失がある場合に無効とすべきという意見もありましたが、過失の判断は柔軟に行うことができるという反論もあり、最高裁判例のまま、相手方に悪意・過失がある場合には効力が否定されることになっています。
この点についての批判は未だに残っていますが、相手方Xが無過失であることを立証する必要があるのではなく、本人Aが相手方Xに過失があることを立証する必要がありますし、まさか代理人が1億円を持って逃亡するということを通常は想像しづらいので、過失の立証は決して容易なわけではないと思います。

最高裁判例と一部異なる民法107条

それから、改正後の民法107条は、基本的に最高裁判例を踏襲しているものの、全く同一ではなく、取り扱いが変わる部分があります。
それは、条文の最後に「代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定されていることに関わります。

最高裁判例では、相手方に悪意・過失がある場合は、代理人の行為が本人に効力を生じない、つまり無効というだけでした。
これに対し、改正後の民法107条では、相手方に悪意・過失がある場合は「代理権を有しない者がした行為とみなす。」、つまり無権代理として取り扱われることになりました。

無権代理として取り扱われる結果、本人Aが代理人の行為を有効にしても良いと思えば、追認によって有効にすることを選べることになりました(民法116条)。
もちろん、上記事例では、本人Aが追認することはないだろうと思います。
ですが、代理人Bが持ち逃げしたのが手付金の500万円だけだったという場合には、本人Aが残り9500万円もらえれば良いと思えば、追認することができます。

また、代理人Bが無権代理人の責任(民法117条)を負うことになりました。
無権代理人の責任については、改正の対象となっていますので、別に詳しく説明いたします。

他にも、相手方の催告権(民法114条)や相手方の取消権(民法115条)も適用されます。

表見代理(民法109条、110条、112条)については、一応無権代理として取り扱われる以上、適用の可能性があると思われます。
ただし、相手方は悪意・過失がある状態だから、無権代理として取り扱われるわけですので、そのような場合で表見代理の正当理由が認められることはまず考えられないと思います。

経過措置

施行日(令和2年4月1日)前に代理権の発生原因が生じた場合には、改正後の107条ではなく、改正前の107条の適用を受けます。

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