相続法改正の解説5 [民法998条] 遺贈義務者の担保責任

遺贈義務者の担保責任

相続法改正のなかで、債権法改正の影響を受けて行われたものの一つが、遺贈義務者の担保責任です。

この点、遺贈義務者の担保責任に関する改正前の民法998条は、以下の条文となっていました。
1 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任を負う。
2 不特定物を遺贈の目的とした場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。


改正後の民法998条は、以下の規定となります。

遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


遺贈義務者や、担保責任という言葉は、一般の方には馴染みのない言葉だ
と思います。
内容的に、どうしてもむずかしい話になってしまいますが、なるべく分かりやすく説明したいと思います。

遺贈がある場合であること

まず、この条文については、遺贈があることが前提になります。遺言者.jpg

遺贈とは、遺言によって財産を無償で与えることです

遺言で、「自宅土地建物を長男に与える。」と記載されている場合、遺贈にあたります。
遺贈と単なる贈与(生前贈与)で異なる点は、いくつかありますが、生前贈与は与える人ともらう人の契約ですので、もらう人が贈与を受けることを承諾しないと有効になりませんが、遺贈は与える人の一方的な意思表示で有効となり、もらう人の承諾は必要ありません。

ですが、遺贈を受ける人、これを受遺者といいますけれども、受遺者は、遺贈を受けるのが嫌であれば、放棄することができます。
そうすると、結論的には変わらないようにも見えますが、契約か、そうでないかという法的な性質が異なるのです。

遺言者・遺贈義務者

そして、遺贈をする人は遺言者と言います。
遺贈義務者とは、遺贈を実行する義務を負う人のことです。それは、通常、遺贈者の相続人です。遺言執行者が選任された場合は、遺言執行者が相続人に代わって遺贈義務者となります。

特定物・不特定物について

改正前の民法998条では、遺贈の目的物が不特定物である場合に限って、遺贈義務者が担保責任を負うと規定されていました。
担保責任とは、目的物や権利に瑕疵があった場合に、相手方に対して負う損害賠償などの責任のことです。
不特定物とは、物の種類・数量・品質等に着目し個性を問わない物のことです。例えば、コンビニで売っているペットボトル飲料やお菓子は、不特定物です。
これに対し、特定物は個性に着目した物であり、土地建物などの不動産、絵画、中古品は、特定物になります。
ですから、一般人の財産のほとんどは、特定物です。
商売人のような方で、同じ種類の商品を在庫として持っている場合には、不特定物が遺贈の対象になることがありそうです。
このような特殊な状況で、遺言者が、商品100個を遺贈した場合に、その商品に瑕疵があったとき、遺贈義務者が瑕疵のない物を渡す義務を負うというのが改正前の民法998条でした。
これは、改正前の債権法が、売主の担保責任について、特定物と不特定物を分けていたことの影響を受けていたものです。

しかし、改正後の債権法では、売主の担保責任について、特定物か不特定物かで区別しないことになりました。
また、無償である点で遺贈と似ている贈与(生前贈与)については、債権法改正により、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定すると改正されることになりました。
つまり、贈与においては、特別な合意等がなければ、目的物を特定したときの状態で引き渡せば済み、売買の場合より担保責任は軽減されています。

担保責任の軽減

そして、遺贈の場合においても、原則として、相続開始の時の状態で引き渡せば義務を果たしたことになりますので、贈与に似た形で、担保責任が軽減されているものと思われます。
遺贈については、改正前より遺贈義務者の担保責任が軽減されていると思います。

この改正に伴い、遺贈の目的物や権利が第三者の権利の目的となっていた場合に関する1000条は削除されることになりました

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