民法(債権法)改正の解説8 [民法95条] 錯誤

錯誤について

民法総則での重要な問題である錯誤の民法95条について、大幅な改正がありまDVD.jpg
す。
錯誤とは、言い間違いなどにより、意思表示の内容と真意に齟齬が生じた場合のことです。
例えば、陣内智則のライブDVDを買おうとして、「陣内孝典のライブDVDをください」と言ってしまい、家に帰って気づいたという場合は錯誤にあたります。

改正前の民法95条は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」と規定されていました。
民法95条は、以下のように改正されました。

1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

無効ではなく、取消しに

重要な変更点として、まず効果の点で、改正前は無効でしたが、改正後は取消権の発生になりました。
その結果、意思表示の効力を否定できるのは、表意者側だけであり、相手方はできないことが明確になると共に、基本的に5年間で取消権が消滅することになりました。
実務的には、改正前の錯誤無効は、無効を主張することの期間制限がないため、主張する側には便利な構成だったのが期間に注意を要することになりました。

善意無過失の第三者の保護

それから、改正後の民法95条4項で、善意無過失の第三者に対抗できないという新たなルールが生まれました。
これまでの裁判例で認められていなかった新たなルールになります。
これによって、例えばXが錯誤の意思表示によってYに土地を売却したときに、すぐにYがZにその土地を転売した後、Xが錯誤に気づいて取り消した場合、ZがXの錯誤について知らず(善意)、かつ無過失という要件を満たせば、Zは土地の所有権を失わないことになります。
改正前に比べ、Zのような第三者の保護、取引の安全の保護がされるようになりました。

重過失でも取消しができる例外規定

それから、表意者に重過失がある場合でも、以下の場合には錯誤による取消権がみとめられることが明記されました。
①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

いずれの場合も、相手方を保護する必要性が乏しいと考えられるからです。
②の共通錯誤の場合については、下級審裁判例ですが、表意者に重過失があっても錯誤無効の主張ができるという判決がいくつか出ていました。

その他の改正点は、基本的に、これまで積み重ねられた判例の解釈を明確化し、分かりやすくするための改正と言って良いと思います。

動機の錯誤の明記

まず、錯誤が、①表示の錯誤(意思表示に対応する意思を欠く錯誤。改正後の民法95条1項1号)と機の錯誤(表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤)に分けられることが明確になりました。
以前の裁判例でも、①と②を区別して取り扱っていました。

次に、②動機の錯誤の場合、その事情(動機)が「法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に限って、取り消すことができることになりました。
以前の判例では、動機の錯誤の場合、動機が意思表示の内容として表示されたことが必要とされていたところ、法制審議会の説明では、従来の判例法理に変更を加えることを意図したものではないと説明されています。

要件の明記

さらに、いずれの錯誤も、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要であることが取消権が認められるための要件であることが明記されました。
これも、以前の判例で、要素の錯誤と認められるためには、錯誤がなければ表意者が意思表示をしなかったという因果関係と、一般取引通念に照らしても錯誤がなければ意思表示をしなかったという重要性が必要とされていたことを基本的に踏襲しているものと思います。

それから、改正の審議の際、相手方の不実の説明により動機の錯誤に陥った場合である惹起型錯誤について、その動機が法律行為の基礎とされていることが表示されていなくても取消を認めることが検討されましたが、反対意見があり、見送られました。

経過措置について

施行日(令和2年4月1日)前にされた意思表示については、改正前の95条ではなく、改正後の95条の適用を受けます。

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