威力業務妨害罪とは
威力業務妨害罪とは、威力を用いて人の業務を妨害した者に成立する犯罪のことです。
威力業務妨害罪については、刑法234条において規定されています。
威力業務妨害罪を犯した者に対する刑事罰は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
威力業務妨害罪は、虚偽風説流布業務妨害罪、偽計業務妨害罪などの業務妨害罪の1つです。
業務妨害罪については、その法的性質について学説上の争いがあります。
業務妨害罪は、基本的に、業務という経済的活動または社会的活動を保護するためのものと思われます。
業務
威力業務妨害罪における業務とは、職業その他の社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務・事業というのが判例の解釈であり、通説も同様です。
社会生活上の地位に基づくということから、家庭生活上のことである家事や、娯楽として行われているスポーツなどは、業務には該当しません。
継続性が必要ということから、東京高裁判決昭和30年8月30日は、大韓民国青年団横芝支部の結成式に侵入して威圧行為によって業務を妨害したことが問題になった事案について、団体の結成式というような行事は、その性質上、一回的一時的なものであつて、何ら継続的な要素を含まないものであるから、これをもってその団体の業務であるとすることはできないと判示し、威力業務妨害罪の成立を否定しました。
他方で、民主社会党結党大会において発煙筒をたきビラを撒布するなどした事案では、東京高裁判決昭和37年10月23日が、その開催は一回に限り、再度又は継続して開催されるべきものでないとしながら、結党大会はその準備委員会の事務の一環として開催されたことを窺うに足り、かかる準備委員会の結党大会運営に関する事務は、準備委員長を始めとする準備委員及び専任書記等一団の人々の行う仕事であり、且つそれは結党準備着手の時から結党完了の時まで継続して行われるべき要素を備えているなどと判示して、本罪の業務に該当することを認めました。
このように、結論的には相反するような裁判例が存在していますが、後者の判決でも、継続性の要件を必要としているものです。
また、違法な業務については、違法性が顕著なものは本罪の保護対象になりませんが、法律に違反している業務であっても、これを妨害した場合に、業務妨害罪の成立を認めている裁判例があります。
公務
公務について、業務に該当するかという問題もあります。
公務については、公務執行妨害罪がありますが、同罪は暴行・脅迫が必要であり、威力を用いたに過ぎない場合は成立しません。
そこで、公務についても、業務妨害罪の成立を認める必要性を認めることができます。
最高裁決定昭和62年3月12日は、強制力を行使する権力的公務以外の公務は業務に該当する旨を判示しました。
強制力を行使する権力的公務に該当する、警察官の公務については、威力程度で犯罪の成立を認める必要はなく、暴行・脅迫というレベルになることを必要としているものと思われます。
威力
威力を用いるとは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことだとするのが判例です(最高裁判決昭和28年1月30日)。
実際の裁判例で、威力に該当することが認められたものとして、
①法律事務所において弁護士に面談を要求したのを拒絶されて憤慨し、訴訟記録や訟廷日誌などの入った弁護士の鞄を奪い取り、自宅に隠匿した場合(最高裁決定昭和59年3月23日)、
②デパートの食堂で蛇20匹をまき散らした場合(大審院判決昭和7年10月10日)、
③参議院本会議場において、内閣総理大臣が答弁している演壇に向けて、傍聴席からスニーカーを投げつけた場合(東京高裁判決平成5年2月1日)
④総会屋が株主総会の議場で怒号した場合(東京地裁判決昭和50年12月26日)
などがあります。
実際に業務が妨害された結果が発生したことが必要かどうかについて、最高裁判決昭和28年1月30日は、不要としました。同判決は、業務を妨害するに足りる行為があれば良いとしました。