民法(債権法)改正の解説74 [民法423条] 債権者代位権の要件

債権者代位権の要件について規定している民法423条が改正されていますので、解説したいと思います。

民法423条の条文

改正後の民法423条は、以下のとおりです。

1 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2 債権者は、その期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為はこの限りでない。
3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。


改正前の民法423条は、以下のようになっていました。

1 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。


この債権者代位権の要件について規定している民法423条について、解説したいと思います。

債権者代位権について

債権者代位権とは、債権者が、債権を保全するため必要があるときに、債務者の第三者に対する権利を代わって行使すること(権利)です。

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例えば、IがJに対して100万円の貸金債権を有している状況で、またJがKに100万円の貸金債権を有しているところ、Jが全く返済を請求せず放置して消滅時効が完成間近になっているときに、Iが直接Kに対して催告をして時効の完成猶予の状態にすることができます。
また、Iが直接Kに対して裁判上の請求をして時効の完成猶予・時効の更新にすると共に、自己への支払いを求めることもできます。

他にも、JがLに対して金銭債務を負っているが、その債務について消滅時効が完成している場合に、Jに100万円の貸金債権を有しているIがJのLに地する債務についての消滅時効の援用をすることもできます。

このようなことをもって、法律的には、債権者代位権は、債務者の責任財産を保全するための制度であると言います。

債権者代位権の要件について

民法423条各項は、債権者代位権の要件を定めています。

改正後の民法423条における債権者代位権の要件は、以下の全てを満たすことが必要です。

①保全の必要があること
②債務者に属する権利が一身に専属する権利ではないこと
③債務者に属する権利が差押えを禁止された権利ではないこと
④債権者の債権の履行期が到来していること(保存行為の場合は不要)
⑤債権者の債権が強制執行により実現できないものではないこと
⑥債務者が権利を行使していないこと

これらの要件について、423条の各項の規定と共に検討していきます。

423条1項本文について

改正後の423条1項本文は、「自己の債権を保全するため必要があるときは、」債権者代位権を行使できると規定し、①保全の必要があることが要件であることを規定しています。

保全の必要があることとは、一般に、債務者が無資力(債務超過)であることを意味すると解釈されています。

元々、改正前は、「自己の債権を保全するため、」とだけ規定されていたところ、今回の改正の議論のなかで、無資力(債務超過)であることを要件として明確化することが検討されましたが、そのような方向では議論がまとまりませんでした。

結果、改正前の規定では債権者の主観面が問題になっているような誤解を招く点を修正し、「必要があるときは」という記載が追加されるに止まることになりました。

その具体的内容として、債務者の無資力(債務超過)とは、具体的にどのような状態を指すかについては、裁判所の解釈に委ねられることになりました。

423条1項ただし書きについて

改正後の423条1項ただし書きは、②債務者に属する権利が一身に専属する権利ではないこと、③債務者に属する権利が差押えを禁止された権利ではないことの2つの要件が必要であることを規定しています。

②債務者に属する権利が一身に専属する権利ではないこと

一身に専属する権利は、一身専属権ともいいます。
一身専属権については、その権利者本人だけが行使すべき権利であるため、それ以外の要件を満たしても、債権者が代位行使することができないとされています。

具体的には、親族法上の権利の多くが該当します。
例えば、離婚請求権、夫婦間の同居請求権、夫婦間の契約取消権、夫婦間の婚姻費用分担請求権、離婚の財産分与請求権、認知請求権、親族間の扶養請求権、遺留分減殺請求権は、一身専属権に該当します。
ただし、離婚の財産分与請求権について、権利者本人が一度行使し、具体的金額が確定した後は、代位行使の対象になることを認めた判例があります。

また、慰謝料請求権も一身専属権です。
ただし、判例は、一度被害者本人が慰謝料請求権を行使し、具体的金額が確定した後は、これを代位行使することを認めており、また慰謝料請求権が相続された場合も、代位行使を認めています。

なお、この要件については、改正前から規定があり、今回の改正の影響を受けていません。

③債務者に属する権利が差押えを禁止された権利ではないこと

差押えが禁止された権利は、代位行使できないとされています。

この点については、改正前は規定がありませんでした。
ただし、改正前の時点でも、債権者代位権は、債務者に属する権利を債権者が直接行使することが認められており、債務者の有する権利を差押えるのと同じ結果を得ることができるため、差押えが禁止されている権利については、代位行使を認めるべきではないと解釈されていました。

したがって、差押えを禁止された権利ではないという要件が今回の改正により明記されることになりました。

差押えが禁止された権利としては、例えば、年金債権や生活保護債権、給与債権のうち差押えができないとされている部分が該当します。

423条2項について

改正後の423条2項において、④債権者の債権の履行期が到来していることが債権者代位権の要件とされています。

改正前は、裁判上の代位という特別な制度がありました。
履行期が到来していない場合に、裁判上の代位であれば、債権者代位権を行使できると改正前の423条2項が規定していました。
裁判上の代位は、債権者代位権を行使して裁判を起こすことではなく、非訟事件手続法に規定されていた特殊な手続です。

裁判上の代位は、平成14年~18年で2件しか利用されておらず、民事保全制度で代用できるため、廃止されることになりました。

そこで、債権者代位権を行使するためには、債権の履行期が到来していることが必要であることが規定されることになりました。

2項ただし書きで、保存行為は履行期が到来していなくても代位行使できると規定されています。
この点は改正前と同様です。

保存行為とは、債務者の財産の現状を維持・保全する行為のことです。
債務者の権利の消滅時効が完成しないように債権者代位権で催告をして時効完成の猶予にすることなどです。

423条3項について

改正後の423条3項は、⑤債権者の債権が強制執行により実現できないものではないことを要件として規定しています。

423条3項は、今回新設された条文です。

自己破産で免責された債権のように、強制執行により実現できない債権の債権者は、債権者代位権を行使できないものと以前から解釈されていました。

このような一般的解釈が明文化されたものです。

なお、債権者代位権は、債務者の責任財産を保全するための制度であり、一般的に、債権者の債権は金銭債権であることが前提とされています。

ただし、金銭債権でない債権も債務不履行により損害賠償請求権という金銭債権になることから、理論的には金銭債権ではない債権の債権者も債権者代位権を行使できると言われています。

また、423条の7で解説する債権者代位権の転用といわれる事例もあり、ここでは金銭債権ではない債権の債権者による債権者代位権が問題となります。

⑥債務者が権利を行使していないことについて

一般に、債務者が権利を行使していないことが、債権者代位権の要件とされていますが、条文上明記されていません。

明記されていませんが、要件として、債務者が権利を行使していないことが必要とされています。

経過措置

施行日である令和2年4月1日より前に債務者に属する権利が生じた場合は、改正前の民法の適用を受けます。

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