民法(債権法)改正の解説76 [民法423条の3] 債権者への支払・引渡し

債権者代位権で債権者が自分への支払・引渡しを求めることができる場合について規定している民法423条の3が新しく設けられました。

423条の3の条文について

423条の3の条文は、以下のとおりです。

債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。


この新しい423条の3について、解説します。

423条の3は、前段と後段の2つの文章に分かれています。

債権者が自分に支払・引渡しを求めることができる場合

まず、423条の3前段は、債権者代位権において、債権者が、債務者の第三債務者に対する権利を行使するときに、自分に対して直接支払や引渡しを求めることができる場合を規定しているものです。拒否.jpg

そもそも、債権者代位権は、債権者が債務者の財産を保全するために認められたものです。

とすれば、本来、債権者に認められるのは、債務者の権利がきちんと行使され債務者の財産が確保される目的であり、あくまで債務者への支払や債務者への引渡しということになりそうです。

ただ、金銭については、債務者が受け取ることを拒否しているのに、債務者に無理矢理受け取らせることは困難です。
動産についても、同様に、債務者が受け取ろうとしないのを受け取らせることは難しいです。

このような問題について、改正前は、民法上の規定がありませんでした。

改正前の判例は、金銭と動産について、債権者が、債権者代位権の行使により、第三債務者に対して、直接自分に支払・引渡しをするように求めることを認めていました。

この判例法理を明確化するため、民法423条の3前段は、債権者代位権において、債権者は、金銭の支払と動産の引渡しを目的とする権利を代位行使する場合には、直接自分に対してするように求めることができる旨を規定しました。

したがって、423条の3前段は、判例のルールを明確化したものであり、改正前と運用が変わるわけではないと思います。

なお、直接支払や引渡しを受けた債権者は、あくまで債務者の権利を代わりに行使しただけですので、受領した金銭や動産を債務者に返還する義務を負っています。
つまり、債権者は、債務者の代わりに受け取ることができるだけであり、それで自動的に債権者自身のものになるわけではありません。

債権者への支払・引渡しによる債務の消滅

423条の3前段の規定に基づいて、第三債務者が債権者に直接の金銭の支払や動産の引渡しをした場合、第三債務者の債務は消滅するかという問題があります。

この点について、改正前は、規定がありませんでした。

ただし、一般的には、債権者代位権の行使を受けた第三債務者が直接債権者に支払や引渡しをした場合には、第三債務者の弁済は有効であり、その債務は消滅するものと解されていました。

そこで、この点について、「被代位権利は消滅する。」と明文化したのが423条の3後段です。

423条の3後段も、改正前からの実質的ルールを明確化したものであり、改正前後で運用の変更はないと思います。

相殺の問題についての改正時の議論

423条の3については、改正時に議論されていた問題があります。

それは、債権者代位権を行使した債権者が直接第三債務者に対して直接自分への支払をさせた場合に、金銭を受け取った債権者が、債務者に対する返還債務と自己の債務者への債権を相殺して優先的に弁済を受けることができるかという問題です。

この点、改正前の実務では、このような相殺を禁止する規定がありませんでした。これにより、債権者は相殺によって自己の債権回収を優先的に行うことができる状態でした。

民法改正の法制審議会における中間試案では、このような債権者代位権による相殺を禁止する改正案が示されました。
それは、先程のような相殺を認めることにより、債権者代位権が本来の債務者の財産を保全する制度というよりも、簡便な債権回収方法になってしまっていることを問題視するものでした。

これに対し、相殺を禁止すると、低廉な費用で債権回収が可能になっていた場面で弊害が生じるなどの反対意見が出たことから、相殺を禁止する規定の導入は見送られました。
これに伴い、民法423条の2について、債権者代位権で行使できるのは債権者の債権額の範囲でなければならないという判例の考え方も維持されることになりました。

よって、債権者が第三債務者から直接金銭の支払を受け、その債務者への返還債務と自分の債権との相殺をすることは基本的に認められます。

ただし、法制審議会において、相殺権濫用の法理などによって相殺が制限されることもあるという指摘がされており、一定の歯止めをかけようという考え方が示されています。

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