民法(債権法)改正の解説63 [民法413条] 受領遅滞

受領遅滞についての民法413条が改正されています。

413条の条文

改正後の413条の条文は、以下のとおりです。

1 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。


これに対し、改正前の413条の条文は、以下のとおりです。

債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。 


以下において、解説したいと思います。

受領遅滞

この413条は、受領遅滞についての規定です。受領遅滞.jpg

受領遅滞とは、債務者が履行の提供をしたが、債権者が受領を拒み、または受領できない場合のことです。

例えば、Xが中古車ディーラーYで中古車を購入し、2週間後にX宅で納車することになっていたため、納車日にYの従業員がその車をX宅に運んで納車しようとしたところ、Xが納車を拒んだ場合、受領遅滞になります。

普通は、このようなことは起きませんが、Xが購入した契約後に、やっぱり別の車が欲しくなり、契約を無かったことにしてもらいたいと言い出した場合に、このようなことが起こり得ます。
中古車ディーラーからすれば、せっかく売れたのですから、簡単に契約を無しにすることはできません。

この受領遅滞については、その要件や法的性質が解釈上問題となり、判例によって一定の解決がされています。
受領遅滞の要件として、受領拒絶または受領不能の債権者に過失などの帰責事由が必要かどうかが問題とされましたが、判例は債権者に帰責事由が無くても受領遅滞になるとし、帰責事由は要件として不要なものとしました。
また、受領遅滞をした債権者に対して債務者が損害賠償・契約解除をすることができるかについて、判例において、受領遅滞があっただけでは、損害賠償・契約解除はできないとされています。

改正前の413条

改正前の413条では、受領遅滞の効果について、「遅滞の責任を負う」とだけ規定され、具体的にどのような効果・責任が発生するのかが分かりにくい状態でした。

そこで、分かりやすい民法を実現するという観点から、今回の改正で、履行遅滞による法的な効果を明記すべきという意見が出ました。

改正後の413条1項

そこで、改正後の413条1項は、特定物の引渡しについての受領遅滞があった場合には、債務者は履行の提供をした時からその引渡しをするまで、「自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる」ことが規定されました。

これは、改正前の時点においても、受領遅滞の効果として解釈上認められていました。
ただ、条文上は、特定物の引渡しの債務を負う債務者は、引渡しをするまで、善管注意義務を負うことが民法400条で規定されているだけでした。
明確な条文はないものの、解釈によって、特定物の引渡しにおける善管注意義務が、受領遅滞の結果、自己の財産に対するのと同一の注意義務という軽い注意義務になることが認められていたものです。

例えば、先ほどの中古車の受領拒絶の事例の場合、ディーラーYは、Xが受け取らない以上、ひとまず車を自社の敷地に持って帰ってきて保管せざるを得ませんが、納車日までは善管注意義務のもと厳重に保管しなければなりませんが、受領遅滞後は受け取らないXが悪いのですから、保管するにあたっての注意義務が軽く済むことになります。

改正後の413条1項は、この改正前の解釈を踏襲し、条文として明確に規定したものです。
したがって、改正前後で運用が変更されるわけではありません。

改正後の413条2項

改正後の413条2項は、受領遅滞によって債務の履行の費用が増加したとき、その増加額は債権者が負担することが規定されています。

これを増加費用の負担といいます。

例えば、先ほどの事例で、中古車ディーラーYは一旦納車をあきらめ車を引き揚げた場合に、自社の敷地内に置くことができず、駐車場を借りざるを得なかった場合、その駐車場代をXに請求できます。Xが納車を拒否したことで増加した費用だからです。

増加費用の負担については、改正前の時点で、民法485条ただし書きにおいて、「債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」と規定されていましたが、債権者の受領遅滞によって債権者が増加費用の負担をすることは必ずしも明確にはなっていませんでした。

この点、改正後の413条2項は、改正前から認められていた解釈上の結論と同様ですので、運用の変更はありません。

なお、受領遅滞の効果については、改正後の413条の2にも規定されています。

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