民法(債権法)改正の解説23 取消しの効果・原状回復義務 民法121条、121条の2

民法改正において、民法121条が改正されています。
民法121条の改正と共に、今回、民法121条の2が新設されています。

改正後の民法121条、121条の2の条文は、以下のとおりです。

121条 
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
121条の2
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

民法121条、121条の2のそれぞれについて、以下で解説いたします。

民法121条について

改正後の民法121条は、改正前の民法121条本文のままです。
改正前の民法121条には、ただし書きがありました。
この121条ただし書きは、改正後の121条の2第3項後段に受け継がれています。

改正後の民法121条は、錯誤・詐欺・強迫による意思表示や未成年者・成年被後見人などの制限行為能力者の行為を取り消した場合における取消しの効果を規定しています。

民法121条によれば、取り消された意思表示・行為は、最初から無効だったことになります。
これを取消しの遡及効、遡及的無効と言います。

瑕疵ある意思表示や制限行為能力者の意思表示で契約が締結され代金支払い等の給付がなされた後に、これが取り消された場合に、具体的に当事者はどのような義務を負うかについては、新設された民法121条の2で規定されることになりました。

民法121条の2第1項について

民法121条の2は、全く新しい条文です。ウイスキー.jpg
無効な契約に基づいて代金支払いや目的物の引渡しなどの給付を受けた者が、原状回復義務を負うことが規定されています。

改正前は、一般に、民法703条、704条の不当利得の規定が適用されるものと考えられていました。
この点、民法703条は善意の受益者が現存利益の範囲で返還する義務を負い、民法704条は悪意の受益者が利益に利息を付して返還する義務を負う旨を規定しています。
しかし、これをそのまま適用すると、強迫を受けて契約した人は強迫されていることを通常認識していますので、悪意の受益者として利息を付さなければなりませんが、錯誤に陥って契約した人は錯誤について認識していませんので善意の受益者として現存利益を返還すれば良いということになってしまいます。
このような結論は妥当とは言えず、単に知っているか知らないか(悪意か善意か)で結論を変えることに合理性が認められない場面がありました。
そこで、最近は、多くの学説が、このような事例で、民法703条、704条を形式的に適用するのではなく、ケースに応じた類型的な処理が妥当であると主張されていました。

このような学説の主張を踏まえ、民法121条の2が新設されました。

そして、民法121条の2第1項は、取消しにより初めから無効になった場合を含め、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、原状回復義務を負うとし、原則として元に戻すべきであることになりました。
これは、現に利益を受けている限度(現存利益)で返還すれば良いわけではありません。
したがって、受け取っていた代金は、全額返還する必要があり、受け取った目的物を費消してしまった場合、例えば目的物がウイスキーでこれを飲み干してしまったときにはその価額を金銭で返還する義務を負います。
金銭の場合に利息を付す必要があるか、投資用マンションの場合に受け取った賃料(これを法定果実と言います。)も返還する必要があるかについては、条文上明らかではありません。
これについては、返還義務を負うのが詐欺の被害者の場合もあれば、加害者の場合もあり、その他の状況によることもありますので、解釈に委ねられることになっています。
詐欺の被害者は、民法708条の不法原因給付として返還義務を負わないという解釈があり得るという指摘があります。
また、消費者契約法の取消権の場合には、同法で給付時に取消原因があることを消費者が知らなかったときに現存利益を返還すれば良い旨規定されており、この適用を受ける可能性もあります。

民法121条の2第2項について

民法121条の2第2項は、第1項の基本的ルールを受け、その例外的取扱いを規定したものです。

贈与などの無償行為に基づいて給付を受けた人は、それが無効であると知らなかった場合や取消原因があることを知らなかった場合には、現存利益を返還すれば良いことになっています。
無効や取消原因を知らずに贈与を受けて自分のものになったと考え、その物を費消してしまったときに、後でその価額を全て金銭で返還することを要求すると、費消してしまった人に不測の損害を被らせるおそれがあるからです。

これに対し、売買契約などの有償行為においても、詐欺や強迫の被害者などの場合に、全て原状回復義務を負わせるのは妥当ではないという指摘が法制審議会で多くなされましたが、これを条文として規定するのではなく、上記のような不法原因給付、消費者契約法の適用などによる救済が解釈上なされる余地が残されることになりました。

民法121条の2第3項について

121条の2第3項も、第1項の例外的取扱いです。
第3項では、意思能力がない者、未成年者・成年被後見人・被保佐人などの制限行為能力者は、現存利益を返還すれば良い旨が規定されています。

改正前の民法121条ただし書きでは、制限行為能力者が現存利益を返還すれば良い旨の規定でした。
改正前は、意思能力についての規定がなかったからです。
今回の民法改正で新設された民法3条2項で、意思能力がない者の行為は無効であることが明記されましたので、意思能力がない者についても規定されることになりました。

意思能力がない者や制限行為能力者の行為が取り消すことができるのは、それらの者を特別に保護するためです。
そのような目的からすれば、厳格な原状回復義務を負わせると、特別に保護した意味が乏しくなってしまうため、現存利益を返還すれば良いことにしたものです。

現存利益とは

現存利益を返還すれば良いという場合の、現存利益とは何であるかは、難しい問題です。
条文上は、「利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」と規定されています。

金銭を受け取った場合、浪費したときは現存利益がないと一般に言われています。
ただ、浪費が何であるかが問題です。
生活費として使った場合は、浪費ではないと考えられています。
また、「南の島でバカンスを楽しんだのであれば浪費とはいえない」、「競馬で負けたという場合も、それなりの娯楽として意味があったのであれば、やはり浪費とはいえない。」(内田貴 民法Ⅱ【第3版】東京大学出版会)という意見もあります。
バカンスも競馬も浪費と言えないとすれば、ほとんどの場合が浪費にはなりそうにありません。

また、最高裁判例は、現存利益がないとと主張する者が現存利益がないことの立証責任を負うとしています。
したがって、現存利益がないことを立証できなければ、全額の返還義務を負うことになります。

他方で、酒などの飲料や食料品、消耗品の場合について、消費してしまったのであれば、残っている限度で返還すれば良いように思われます。
この点についても、誤って配達されたワインを飲み干してしまった場合について、「そのワイン購入の出費を免れているから、現存利益ありというべきだろう」(上記内田貴 民法Ⅱ【第3版】東京大学出版会)という意見もあり、どのような場合に現存利益がないことになるかについては、微妙な問題といえます。

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