民法(債権法)改正の解説21 無権代理人の責任 民法117条

今回の民法改正で、無権代理人の責任について定めた民法117条が改正の対象となっています。

改正後の民法117条の条文は、以下のとおりです。

1 他人の代理人として契約した者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得た時を除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権が無いことを知っていたときは、この限りでない。
 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。


民法117条1項と2項について、それぞれ解説します。

民法117条1項について

改正前の民法117条1項は、「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」という規定でした。土地売却.jpg

改正後の民法117条1項は、これを踏襲していますが、少し表現が変わっています。

この条文は、いわゆる無権代理人の責任を規定したものです。
無権代理人とは、代理権が無いのに他人の代理人として契約などの代理行為をした者のことです。
無権代理人の行為は、原則として有効になりません。
したがって、無権代理人に代理権があると信じて契約などをした相手方は、損害を受けます。

そこで、そのような無権代理人が、代理権があると信じて契約などをした相手方に対して責任を負うことを規定したのが民法117条です。

117条1項は、その基本的な条文です。
まず、無権代理人の責任の具体的内容が、履行責任か、損害賠償責任のいずれかであり、代理権があると信じた相手方がどちらかを選択することができます。

履行責任とは、本来の契約に基づいて履行することです。
例えば、無権代理人Qが、Rから代理権を与えられていないにもかかわらず、Rの代理人として、相手方Sが自己所有のd土地を2000万円で売りたいと言っていたのを買う契約を結びました。
この場合、Sは、無権代理人Qに対し、契約どおり2000万円の代金を支払うという履行を請求することが認められるのです。
ただ、無権代理人QがS所有のE土地を売る契約をした場合に、これを買う契約をした相手方SがE土地を渡すよう履行を請求したいと思ったとしても、QにとってE土地はSという他人の所有物ですので、そのE土地を渡すのは事実上無理です。
相手方Sは、事実上無理な履行を請求しても意味がありません。
したがって、履行責任を選択する意味がある場合は、無権代理人の所有物や市場で容易に入手できる物を引き渡す契約などの場合だと思います。

他方、損害賠償責任は、相手方の損害を金銭で賠償するものです。

それから、改正後の117条1項では、「自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き」責任を負う旨が規定されています。
ですので、相手方が無権代理人の責任を追及しようとした場合、相手方が無権代理であることを立証する必要はなく、責任追及を受けた側(無権代理人とされた者)が自分に代理権があることを立証すれば責任を免れ、立証できなければ責任を負うことになります。

また、本人の追認を得たかどうかについても、無権代理人が本人の追認を得たことを立証すれば無権代理人の責任を免れることができる、つまり無権代理人に立証責任があります。
この点について、改正前の117条1項では、「本人の追認を得ることができなかったとき」に無権代理人の責任を負うという規定でしたので、無権代理人の責任を追及しようとする相手方が、追認を得ることができなかったことの立証責任を負うかのように解釈するのが自然でした。
しかし、実務では、消極的事実の立証は困難であり、無権代理人が追認を得たことを立証できたときに責任を免れるというように、無権代理人が立証責任を負うものと解されていました。
そこで、今回の民法改正で、実務の運用を明文化することになったものです。

以上のように、民法117条1項については、今回の改正で実質的な結論に変更はありません。

民法117条2項について

改正後の民法117条2項は、基本的に改正前の民法117条2項を受け継いでいます。
ですが、一部ですけれども、実質的な結論の変更を伴っています。

改正前の民法117条2項は、無権代理人の責任発生の要件について、同条1項に加えて、以下のように規定していました。

前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。


このように、改正前の民法117条2項は、以下の事項に該当するときは、無権代理人は責任を負わない旨を規定していました。
①相手方が、代理権の不存在を知っていた、または過失によって知らなかった場合。
②無権代理人が行為能力を有しない場合。

これに対し、改正後の民法117条2項は、無権代理人の責任が発生しない場合を以下のように細分化しました。
①相手方が、代理権の不存在を知っていた場合。
②相手方が、過失によって代理権の不存在を知らなかった場合。
③無権代理人が行為能力の制限を受けていた場合。

③については、表現が変わっているものの、内容に変更ありません。

ただし、②の場合を規定する民法117条2項2号ただし書きにおいて、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、相手方が過失によって代理権の不存在を知らなかった場合でも、無権代理人の責任が発生する旨を規定しました。
改正前は、このような規定がなく、相手方に過失がある場合は無権代理人の責任は生じませんでしたが、自分に代理権がないことを知りながら無権代理行為をした悪質な無権代理人を保護する必要性は低いという観点から、今回の改正に至ったものと思われます。

経過措置について

経過措置に関する附則7条2項は、無権代理行為が施行日(令和2年4月1日)より前にされた場合は、無権代理人の責任について、改正前の民法117条を適用することを規定しています。
民法118条で民法117条を準用する場合も同様です。

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