殺人罪

殺人罪とは、その名前のとおり、人を殺した者に成立する犯罪です。
殺人罪の規定は、刑法199条にあります。
殺人罪の刑事罰は、死刑・無期または5年以上の懲役です。

凶悪事件の最たるものである殺人事件は、テレビなどでセンセーショナルに報道されることが多く、治安の悪化が叫ばれる原因になりやすいところです。
しかし、戦後直後は年間3000件程度あった殺人罪の認知件数も、徐々に減り続け、ここ数年は1000件程度で推移していますので、殺人事件の発生は減少傾向にあるといえます。

また、刑法犯全体の検挙率は約30%で推移しているところ、殺人罪の検挙率は90%を超えており、最も検挙率の高い犯罪の1つといえます。
それは、世間の感心を強く集め、警察も検挙に力を注ぐこと、殺人事件と認知される場合には死体という重要な客観的証拠が残っていること、非常に重い罪でありながら得られる利益は乏しく突発的な犯行が多いこと等が理由として挙げられると思われます。

殺人罪の対象となる客体は、当然、ですが、実は人に該当するかどうかの判断が問題となる場合があります。
1つは、胎児と人の分かれ目です。つまり、まだ母体のなかにいるときは胎児であり、胎児に対する攻撃で胎児を殺してしまった場合は堕胎罪の問題になります。
出生により、人になり、殺人罪の客体になります。
この出生がどの段階であるかについて、①陣痛開始説、②独立呼吸説、③一部露出説、④全部露出説、⑤生存可能性説などの争いがあります。
判例・通説は、③一部露出説をとっています。胎児の一部が母体から露出した場合には、その露出した箇所に攻撃することが可能であり、それは殺人罪等で処罰すべきと解されています。

また、死体に対して銃撃しても、殺人罪ではなく、死体損壊罪が問題になるに過ぎません。
そこで、いつ人が死亡したかについても問題になります。特に、脳死状態での臓器移植が臓器移植法により認められたものの、それ以前は脳死をもって人の死とはされていなかったことも問題となります。
この点、以前は、自発呼吸の停止、脈(心臓)の停止、瞳孔散大・対光反射の消失を総合的に判断する心臓死説(三徴候説、総合判定説)が通説判例でした。
これに対し、臓器移植法制定もあり、脳死をもって人の死とする脳死説が有力になっていますが、これに対し、臓器移植法の要件を満たす脳死状態の臓器移植は適法だとしても、臓器移植をしない場合には、脳死状態の人に対して、その人工呼吸器を故意に取り外す等して心臓死させる行為は殺人罪を認めるべきとの批判もあります。

刑法上、殺人の手段に限定はありません。
被告人が愛人の女性に別れ話をもちかけたが、女性がこれに応じず女性から心中をもちかけられ、その相談に乗りながらも途中から心中する気がなくなったのに、被告人は後で死ぬかのように装い、それを信じた女性に青酸ソーダを飲ませて死亡させた偽装心中の事案において、最高裁は殺人罪を認めました(最高裁判決昭和33年11月21日)。その理由として、女性の自殺の決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思であることが明らかと判示しました。
これに対し、女性は自分が死ぬこと自体に錯誤はないことから、自殺幇助罪等で処罰すれば足りるとする学説もあります。

また、殺人の手段は問わないといっても、呪いで人を殺せると妄信して、丑の刻参りで人を殺そうとしても、当然人は死にませんが、殺人未遂罪にもならないと考えられています。このような結果発生の現実的可能性が無い行為を不能犯といいます。
判例上、人が死ぬことはない硫黄入りの味噌汁を殺意をもって内縁の夫に飲ませた行為について、不能犯として殺人未遂罪を否定したものがあります(大審院判決大正6年9月10日。ただし、その後に絞殺したことについて殺人罪が認められています。)。
他方で、通常苦くて食べられないストリキニーネ入りの鮒の味噌煮を作って食べさせようとした行為について、絶対に食べることはないとはいえないとして、殺人未遂罪を認めた判決(最高裁判決昭和26年7月17日)や、警察官から拳銃を奪って人を殺そうとしたところ、銃弾が入っていなかったため殺害できなかった行為についても殺人未遂罪を認めた判決(福岡高裁判決昭和28年11月10日)があります。

殺人罪が成立するには、殺意(殺人の故意)あることが必要です。
ただし、殺意が認められるためには、「殺してやる」というような積極的な意図は必要ではなく、「死なせてしまうかもしれないが、それでも構わない」という程度(死亡の可能性の認識・認容)で足りるとするのが実務です。

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